■連載小説 -星と陽の間で- 第7話■
夫のシンガポール赴任に伴い来星することになった主人公・映子が、シンガポールと日本の価値観の間で揺れ動く。
そんな映子のこれから始まるシンガポール生活への不安や困惑、希望を描いたストーリー。
前回までのお話
実際に物件を見ることでシンガポールに住むということが現実味を帯びてきた映子
メイド部屋を見てショックを受けた映子に対して、固定観念は捨てたら、と簡単に言う夫
久々に長い時間一緒に過ごす夫との価値観の違いに薄々気づいてきた映子だが…
【第7話】
「いらっしゃい!どうぞどうぞー」
美子さんのお宅もやっぱり床は大理石。
アジアンテイストなインテリアとアンティーク風の家具が融合していて、とてもおしゃれでなんだか不思議な空間。
そんな不思議な空間に流れている懐かしい香り。
肉じゃが?お味噌汁?
シンガポールなのに?
そしてキッチンに立っているのは…噂のヘルパーさん!
和食も作れるんだ…なんだか不思議…
「おじゃましまーす。
初めまして!夫の耕平と娘の芽衣、7ヶ月です。
これ、お好きかどうかわからないんですけど日本の味も恋しいかと思って」
「いやーん、とらやの羊羹!たまにめっちゃ食べたなんねん!!嬉しいわー。
あ、ごめんなさい!
改めまして…
初めまして美子です。こちらウチの三男坊コタローくん8ヶ月です。よろしくねー。
で、どう?シンガポールは?」
「暑いです!そして寒いです!そして何語話してるのかわからないです!
私、こんなところで生活できるんでしょうか?」
「思うよねー。私も最初いろいろ『えっ?!』って思った。でもすぐ慣れるよ。
皮膚も南国仕様になってくるからエアコンにもすぐ慣れる」
「慣れるんですか?!慣れるようには思えない…。
ところでシンガポールの人って何語を話してるんですか?
昨日乗ったタクシーの運転手さんが全然言葉通じなくて。
でもこっちの英語は理解してるみたいで…」
「ふふっ。タクシーの運転手さんね、あれ英語よ。
シンガポールの人はみんな英語話せるよ。
たまーに話せない年配の人もいるけどね、そういう人は逆に珍しいかも。
でもね、シンガポーリアンの話す英語は訛りがひどいから聞き取れるようになるまでしばらくかかるよ。
シンガポール人の英語はシングリッシュって言ってけっこう独特やの。
中国訛りもインド訛りもけっこう聞き取るの難しいしねー。
まぁ、向こうからしたら日本人の訛りはヒドイって評判みたいやけど。
芽衣ちゃんもローカルの幼稚園入ったらシングリッシュ習得しちゃうかもよー」
「英語…だったんですね。
学校で習ってきた英語とはだいぶ違ったので…
なんか、ちょっとカルチャーショックと言うか…なんというか…」
「シンガポールに来たらしばらくはそのカルチャーショックとの戦いよ。
時間通りに来ないし、ドタキャンするし。
そういうのにも徐々に慣れてくるから大丈夫よ。自分の適応能力を信じて。」
慣れてくるんだ…
私が抱いているカルチャーショックや固定観念も、2,3年したらあの時はこうだった、と話せるようになるんだろうか。
美子さんは関西人だからこんな風に話せるんじゃないの?
美子の存在すらある意味カルチャーショックな映子だった。
「…ってかお腹空かない?ゴハンにしよっか」
「ありがとうございます!シンガポールでも和食って作れるんですね。しかもこれって…お手伝いさんが作ってらっしゃるんですか?」
「そうそう。日本の食材は割とどこでも買えるよ。高いけどね。
ウチのヘルパーは色々覚えてくれたから助かってるの。今はもう私より上手かも。
最初はいろいろ大変やったけどねー。
コタローは肉じゃが潰して食べさせるけど、芽衣ちゃんはどうする?
お粥さんは炊いてるからいるなら言って。いつもちゃんと別で作ってる?
「え、大人のもの食べさせて大丈夫なんですか?」
「ウチはね、もう三人目やし。
お粥さんと混ぜたら塩気も薄まるから大丈夫かなー、って。
お味噌汁も上澄みにお白湯混ぜて飲ませたりね」
「えー、雑誌では見たことあるんですけど実際にあげるのは怖くって。
シンガポールのことだけじゃなくって育児のことも色々教えてください!」
「モチロンよ!」
「ハイ、ドウゾー」
「え、コレ俺が食べさせんの?」
「お父さん頑張れ。何事も経験!練習!!」
「パパ、普段全く育児手伝ってくれないもんね。」
「やっぱりその辺、日本人はまだ亭主関白文化が残ってるのかな。
私がこっちに来る時でもすでにイクメンとかいう言葉が定着しつつあったけど、やっぱり国民性として難しいのかもね。
ヘルパー雇うのだって、日本人は欧米人のご主人に比べると二の足踏んじゃう人多いし。
『他人と一緒に住むのはちょっと…』って言ってるけど、半分はそうで、半分は家事・育児は母親がするもの、っていう先入観がなかなか抜けないのかな、って思ったり。」
「ふふっ。パパ意外と日本男児だしね。」
「こっちに来たら欧米人ファミリーと接する時間増えると思うから、きっとご主人も色々考え方変わってくると思うよ。
子供のイベントに参加するパパも多いし、パパ一人で子ども連れてお出かけしてる姿もよく見るし。
色々変わると思うよ、シンガポールに来たら。」
「…」
「それにパパが手伝ってくれないなら、映子ちゃんもヘルパー雇ったらいいじゃない。
身体はもちろん、気持ちにも余裕できるよ。
パパも後ろめたさ無くなるよー。」
美子さんにつられてワンオペ育児してますアピールをしてしまったけれど、夫は明らかにムッとしていた。
こういう機会でもないと自分の気持ちを表現できないのも事実で、そんな自分が嫌になる。
私もシンガポールに来て色々変わりたいな…
ってか美子さん今サラッと「ヘルパー雇ったら?」って言ったよね?
<第8話に続く・・・>
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