【クラフトビール解体新書 vol.4】 シンガポールのクラフトビールのレジェンドたち

【2024年2月アップデート版】

皆様ごきげんよう!

シンガポールのクラフトビールのコラムを書かせていただいております、SG TAPS店長の広瀬と申します。

今やそのムーブメントの隆盛を極めんとするシンガポールのクラフトビールカルチャー。
周りを見れば様々なタイプのクラフトビール店が見つけられ、まだまだ新店舗が次々とオープンしています。
世界中の主だったクラフトビールで、見つからないものはないと言っていいくらい、あらゆるビールが手に入ります。しかしそれはせいぜいここ7~8年の事。

それ以前はクラフトビールを輸入するサプライヤーも少なく、当然そういったビールを売る店を探すことも困難でした。
しかし、そんな時代にも、果敢にクラフトビールをシンガポールに根付かせようとしていた、歴史的な猛者たちがいました!

今回は、クラフトビールブームが起こる7~8年前どころか、20年もしくはそれ以上前、人々が注目するはるか昔から、シンガポールでクラフトビールを売り続けている、レジェンドたちを紹介していきたいと思います。

<広瀬礼仁>
シンガポールのクラフトビール専門店「SG TAPS」店長兼ウエイター。
当地シンガポールにて、クラフトビール業界に5年程関わったのち、2018年4月に独立。ビールを始め、日本酒、ワイン、ウイスキーなど、アルコール文化に対する愛は誰よりも広く深いと自負している。


[Colbar]

9A Whitchurch Rd, S138839

前回も紹介させていただきましたが、ポーツダウンロードという、昔からのコロニアル様式のアパートが立ち並ぶエリアの近くにある、とても古いお店。なんと1950年代から営業しているそうです。

ColbarとはColonial Barの略だそうで、つまり英国領時代からあるお店なのです。数あるシンガポールのクラフトビールバーの中でも、レジェンド中のレジェンド。もはや文化遺産クラスです。

英領時代の面影を強く残すコロニアル様式の建物が立ち並ぶ地域に、木々に囲まれてひっそりとこの古いバーはあります。

バーと言ってもカクテルやワインがあるわけではありません。

生ビールもありませんが、その冷蔵庫には、古き良き英国の伝統あるエールビールのボトルが並びます。派手な味の今のクラフトビールとは違う、麦の優しい味のする昔ながらのイングリッシュエールです。英国伝統なのでほとんどが500mlの大瓶で、小瓶はありません。ボトルは大瓶11~12ドルNETTですので、非常にリーズナブルです。

また、イギリスではよく飲まれているサイダー(アルコール入りのもの)も多数揃えています。屋外ですので、暑い時にはサイダーはさっぱりしてよいと思います。

お料理も色々あり、フィッシュアンドチップスやオムレツ、サンドイッチなど、英国のパブを思わせるものや、チャーハンやフライドビーフンのようなローカルフードまで、幅広く提供しています。リーズナブルでボリュームもあり、とてもおいしいです。

掘っ立て小屋にしか見えない愛嬌ある外観、1950年代から時が止まったようなレトロな装飾品、木々に囲まれ風が吹き抜ける気持ちの良い屋外席。一度行ったら忘れられない、魅力のあるお店ですので、特に週末は年配の欧米人を中心にとても賑わっています。お子様連れや犬の散歩中の方も多いようです。

しかしながら、この地域は現在政府による再開発が進められており、周りの建物は撤去を余儀なくされています。

この伝統あるお店がなくなってしまうとは思いたくありませんが、現実的にはあと数年以内に移転せざるを得なくなってしまうかも知れません。

ですので、この歴史ある素晴らしい店にぜひ行って、シンガポールの英領時代の雰囲気に身をひたしてほしいと思い、前回に引き続き、もう一度紹介させていただきました。

  • 価格:安い
  • ビールの種類:イギリス系エールとサイダーで30種類ほど
  • 雰囲気:ゆったりしていて最高
  • トイレ:昔のシンガポール家屋風
  • アクセス:悪い(191番バスが便利)
  • 一口ポイント:英国統治時代からの店

[Brauhaus Restaurant & Pub]

United Square 101 Thomson Rd, B1 – 13/14, S307591

ノベナのユナイテッドスクエアという日本人にも馴染みの深い場所で、すでに25年以上も続いているビールバーです。

特筆すべきなのはそのボトルビールの品ぞろえで、50ヶ国、100種類以上の世界各国のボトルビールを揃えています。価格帯は10ドルから18ドル程度と、他のバーと同程度です。

ラインナップも独特で、流行のクラフトビールには目もくれず、ドイツ、ベルギー、イギリスのクラシカルなビールと、あまり見慣れないサードワールド的なラガービールに特化しています。

ホップを効かせたりフルーツを加えたりと、派手なクラフトビールが人気の現在にあっても、そちら方面には一切手を出さずに、昔からのコンセプトをひたすらに貫き続けています。

ここで売っているサードワールド的なビールというのがなかなか興味深く、ジャマイカ、ペルー、ナミビア、ウクライナ、ベネズエラ、クロアチアなど、普段ほとんど目にすることのない国のビールを味わうことができます。

さながら、シンガポールにいながらビールの世界旅行をしているような楽しい時間をすごせます。

お料理も、オーセンティックなバーフードながら、しっかりとしたものを提供しています。

長年の営業がそのまま積もり重なったような密度の濃い独特なインテリアも含め、皆様を時間を超えたビールのたびに誘ってくれることでしょう。

  • 価格:普通のバー程度
  • ビールの種類:50ヶ国100種類を超える他では見られないバラエティー
  • 雰囲気:レトロで異世界感がある
  • トイレ:普通
  • アクセス:NOVENA駅からほぼ直結
  • 一口ポイント:クラフトビールブームに迎合しない、ぶれないコンセプト

[Charlie’s Corner]

Changi Food Center, 2 Changi Village Rd, #01-70, S500002

都心から遠く離れたチャンギビレッジというエリアに、20年近く前から営業しているクラフトビールのボトルショップです。

ホーカーセンターの横にこじんまりとお店を構えていますが、海を目の前にした開放的なロケーションで、週末は家族連れなどで非常に混みあっています。

クラフトビールブームの遥か昔から、しかもチャンギビレッジというロケーションにお店を構えていたという、知る人ぞ知る、隠れたクラフトビールバーのパイオニアです。

生ビールは、クラフトビールではありませんが5種類ほど。

ボトルはイギリスのエールや、ベルギービールなどを中心に40種類ほど。

ビール自体に驚くほどの特徴はありませんが、このお店の売りは何と言っても、その開放感あふれる気持ちのいいロケーション。そして、リーズナブルでありながらボリュームある、美味しいお料理です。

ハンバーガーがかなりリーズナブルで、一番高いものでも$10。

大きめのパティに色々な具材がたっぷり入って、食べ応えは十分。これひとつで十分満足できます。

すぐ横が公園になっているので、お子様連れのお客さんも多く、土・日を家族で過ごすにもいい場所ではないかと思います。

歩いてすぐの場所に、Little Islandというクラフトビールブリュワリーがあり、こちらもお子様連れでも行きやすいので、はしごするのもおすすめです。

  • 価格:ホーカー内なので、やや安価
  • ビールの種類:50種類ほどの基本的な品ぞろえ
  • 雰囲気:海沿いの開放的なロケーション
  • トイレ:ホーカーのトイレなのできれいではない
  • アクセス:遠い
  • 一口ポイント:シンガポール最古のクラフトビアバーのひとつ。

[Next Door Café & Taverna]

【2021年5月時点アップデート】クラフトビール販売終了

699 E Coast Rd, S459061

シンガポールでも珍しい、アドリア海の料理を提供しているカフェ&バーで、10年以上も前から、数十種類のクラフトビールやヨーロピアンクラシックビールを、料理と合わせて提供しています。

シェフがセルビア人のようで、オーセンティックなバーメニューに挟まれて、クロアチアやセルビアあたりの料理がちらほらと入っています。

例えば、Buzara(ブザラ:クロアチア風魚介のワインオリーブオイル煮込み)、Pljeskavica(ピリィエスカビッツァ:セルビア風ハンバーグ)といったものです。

 

ハーブの効いたアドリア海料理と、どっしりとしたベルギーの修道院ビールなどはとても相性が良く、大陸的な空気を思いながら楽しむことができます。

それ以外にも、バラエティー豊富なパスタやピザなども揃えており、こちらもまたアドリア海を挟んだお向かいのイタリアから渡ってきた本格派。とにかく手造りにこだわった料理がおいしいです。

気さくなオーナー婦人のていないな接客も相まって、店名の通り、近隣に住むローカルや欧米系のお客さんが、足しげく通っているようです。

クラフトビールだけではなく、普通のバーフードやイタリア料理に飽きてしまった方には特におすすめできるお店です。

イーストコーストよりもちょっと先のシグラップという住宅エリアにあり、近くに住んでいる人でなければちょっと行きづらい場所ですが、わざわざ足を運ぶ価値が十分あると思います。

  • 価格:普通のバー程度
  • ビールの種類:ヨーロッパのクラシックなビールを中心に50種類ほど
  • 雰囲気:丁寧でフレンドリーな接客
  • トイレ:きれい
  • アクセス:悪い
  • 一口ポイント:シンガポール唯一のクロアチア・セルビア料理

[Alchemy]【移転】

128 Prinsep St, #01-01, Singapore 188655

クラークキーの川沿いから少し入った、KTVやバーが並ぶビルの奥に、10年ほど続いているひっそりとしたバー。

シンガポール、アメリカ、オーストラリア、香港、ベルギーなど、新旧交えたクラフトビールを50種類ほど揃えており、クラフトビールの昨今をまんべんなく楽しめます。

また、ちょっとしたフード類も提供しています。

 

クラークキーの喧騒をよそに、このエリアを訪れるのはほとんどが常連さんだけで、その中で10年続くというのは、常連さんや近隣に愛されている証拠でしょう。

バーのスタイルはとてもカジュアルでローカライズされており、屋外のハイテーブルがメインです。

常連の皆さんは、クラフトビールだけではなく、アサヒの生ビールをタワーで注文したり、ゲームをしたりと、気兼ねなくそれぞれ楽しんでいます。

そんなゆるーい雰囲気が、お客さんを長く通わせる秘訣なのでしょう。

私がここが好きな理由の一つは、ベルギーの有名ビール「Brugse Zot(ブルッグス・ゾット、ブリュージュ・ゾットなど、いくつかの呼び方があります)」が常にあるところです。

こってりと複雑な味が特徴で、ハーブなどは使用していないにも関わらず、様々な香りがあふれてきます。金色ボトルの「ブロンド」と赤色の「ダブル」があり、赤色があったらもうけもの。ワイン顔負けの複雑さを味わえます。

隠れ家と呼ぶにふさわしい、意外なエリアのクラフトビールバー、時にはクラークキーから少し歩いて探してみませんか?

  • 価格:普通のバー程度
  • ビールの種類:新旧織り交ぜたクラフトビールが50種類ほど
  • 雰囲気:ローカルバー的
  • トイレ:きれい
  • アクセス:少し歩く
  • 一口ポイント:普通に歩いていてはまず見つからない穴場

おまけ

[The Owl’s Den Bar & Bistro]

【2021年5月時点アップデート】閉店しました。

294 River Valley Rd, S238335

日本人が多く住むリバーバレーロード沿いにあり、とりわけ日本人の多いアスペンハイツの真向かいにあるのですが、入り口のわかりづらさから、ほとんどの人に気づかれていないパブです。毎日その前を通っている、なんて人もいるかも知れませんね。

実はまだ出来たばかりのパブですが、何がレジェンドなのか。

それはこの店が、昨年惜しまれながら閉店した「シンガポール最古のビアパブ」The Yardの跡地で、その歴史ある内装をそっくりそのまま使っているからです。

The Yardというお店は、1980年代半ばにシンガポールで最初の本格ビアパブとしてオープンし、30数年の営業を経て、オーナーの高齢化と後継者不在により、昨年、多くのファンに惜しまれつつも閉店してしまいました。

その内装は英国やアイルランドの古いパブさながらで、ハリーポッターにでも出てきそうな、少し薄暗い感じがたまりません。こんなお店ならスタウトビールを飲んでいるだけで、心はダブリンにトリップしそう、というくらいのお店でした。

その内装をそっくりそのまま買い取り、コンセプトもほとんどそのままに、数か月前に新しいパブがオープンしました。

何という僥倖でしょう。シンガポールのクラシックパブのファンとして、こんなに嬉しいことはありません。

というわけで、日本人にはとても訪ねやすい場所にありますので、アイリッシュパブがお好きな方、シンガポールのビールの歴史を感じたい方には、ぜひ一度訪れていただきたく、掲載させていただきました。

スタンダードなビールのみで、クラフトビールは置いていませんが、バーではなく「パブ」と呼ぶにふさわしいその雰囲気は、一度見てみて損はありません。イギリス伝統のクラシックエール「ロンドン・プライド」をぜひ、お楽しみください!

  • 価格:普通のバー程度
  • ビールの種類:普通の生ビールが3種類(スタウト有)
  • 雰囲気:まさに「パブ」といった、たまらない雰囲気
  • トイレ:きれい
  • アクセス:リャンコート近く
  • 一口ポイント:シンガポール最古のパブの生まれ変わり

いかがでしょうか?

クラフトビールの入手がシンガポールでは困難だった頃から、入手経路を開拓し、ゆるぎないポリシーで営業を続けてきた、尊敬すべきビール界の偉大なるパイオニアたち。

今やシンガポールには世界中の新しいクラフトビールたちがどんどん押し寄せてきています。

情報の氾濫に時折疲れてしまうこともあるかもしれません。

そんな時は、これらのお店を尋ね、古き良きビールを飲みながら当時のシンガポールの様子に思いめぐらせ、ゆっくりしてみるのもいいかも知れませんね。

SG TAPS

島内唯一シンガポールのクラフトビールが18種類、生で飲めるシンガポールビール専門店。 ボトルビールでは更に、日本、香港、ベトナム、台湾、インドなどのクラフトビールを揃え、アジアのクラフトビール文化を底上げしていきたいと考えている。 ラクサピザ、奄美鶏飯風チキンライスなど、ローカル、和洋食を絶妙に組み合わせたユニークなフードも人気。
https://www.instagram.com/sg.taps/

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