【クラフトビール解体新書 vol.16】シンガポールにまだまだあります、意外な老舗

皆様、今月もビールをエンジョイしていますか??

前々回、サーキットブレーカー前後でオープンした、新しいクラフトビール店を紹介させていただきました。このような状況でも沢山のお店がオープンしていて、改めてクラフトビールのマーケット需要の大きさに驚きました。

それとは対照的に、コロナ過をものともせず、変わらぬ姿で営業し続ける、歴史の長いお店もたくさんあります。

新しいお店の流行のクラフトビールも魅力ですが、昔からそこにあるお店で飲むオールドスタイルのビールも、包み込まれるような安心感があって良いものです。

今までも様々な老舗クラフトビール店、老舗パブを紹介してきましたが、今回はそんな中で今まで紹介していなかった、意外にも知られていない老舗を紹介していきたいと思います。

<広瀬礼仁>
シンガポールのクラフトビール専門店「SG TAPS」店長兼ウエイター。
当地シンガポールにて、クラフトビール業界に5年程関わったのち、2018年4月に独立。ビールを始め、日本酒、ワイン、ウイスキーなど、アルコール文化に対する愛は誰よりも広く深いと自負している。

[Owls Brew]

146 Mackenzie Rd, Singapore 228723

まさかこんな場所にクラフトビール店があるとは、という驚きのロケーションの老舗パブです。歴史を感じる外観やレトロなインテリアも相まって、こんな場所にこんなパブがあったんだ!という意外性満載のお店です。

リトルインディアの駅から近い場所にありますが、少し奥に引っ込んだ住宅の下にあり、たくさんの人で賑わうリトルインディア中心部とは打って変わって、とても静かに落ち着いて飲める立地にあります。

そのためか、特に外のテーブルは、近隣の昔からの常連さんで常に埋まっています。

現在ドラフトビールは意外にも沖縄のオリオンビールで、パイント13ドルネットですが、ハッピーアワーは10ドルネットと、とてもお得な価格になっています。

他にもボトルのクラフトビールで、イギリスやアメリカの物をバランスよく揃えています。

フードのバラエティーが豊富で、ピザ、バーガー、チャーハン、ムール貝などのメインを始め、ローカルっぽいスナックや、カレーうどんや焼き鳥などのちょっと和食っぽい物も提供しています。

7ドルおつまみが3つで15ドルというサービスをしていたので注文しましたが、かなりのボリュームで一人では食べきれない程の量でした。

税金サービス料込みのネット価格ですので、お値段はリーズナブルだと思います。

特に派手なコンセプトや内外装でなく、ビールも極めてスタンダードですが、家の近くにあり、いつも安定した料理とビールを楽しめる。コロナ禍の世の中で在宅勤務が一般的になる中、こういった「近隣パブ」が見直され、混みあうようになっています。

このOwl’s Brewは、そういった長く愛され続けている「近隣パブ」の見本のようなお店です。

  • 価格:リーズナブル
  • クオリティー:良い
  • 雰囲気:静かな住宅地にある落ち着いたパブ
  • トイレ:きれい
  • アクセス:リトルインディア駅から5分
  • 一口ポイント:「近隣パブ」の見本

[WitBier]

14 Aliwal St, Singapore 199907

アラブストリート付近に長く営業している、クラフトビールブーム以前からの、ローカルビアパブの元祖のようなお店です。

その名前の通りメインはドイツビールで、パウラナーやファステンバーグなどのクラシックなビールを5種類ドラフトで提供しています。パイントは15ドル程ですが、UKパイントという大きめのパイントグラスに注いでいますので、たっぷりの量で楽しむことができます。

ボトルではベルギーやイギリスのクラシックなビール、ローカルのクラフトビールなども揃えています。

ドイツビールに合わせ、以前はドイツスタイルのバーフードを提供していたかと思うのですが、最近訪れてみたところ、驚くことに刺身や巻き寿司などの和食スタイルの食事に変わっていました。なんと混ぜそばなどもあります。

メニューに日本語表記もあるあたり、かなり本気で和食に取り組んでいるかと思われますが、ドイツビールとの相性はどうなのでしょうか?とても興味深いところです。

もう一つの大きな特徴は、かつてシンガポールのそこら中にあった、若いウエイトレスが常連さんと話したりしながら接客し、それを目当てに男性客が訪れる、という昔ながらのパブスタイルのお店だという事です。

20年くらい前は、パブと言えばどこもこのような雰囲気だったものですが、さすがに時代にそぐわないのか、そういったスタイルのお店はじわじわと減り続け、今では数えるほどになってしまっています。

ここはまだそのスタイルを多少残しているようで、常連のおじさんらしき欧米人が、ウエイトレスさんを捕まえて楽しそうに談笑しているのを見ると、とても懐かしい人情味のようなものを感じます。

アラブストリート周辺そのものが、シンガポールの古き良き雰囲気を色濃く残していて、近くのサルタンモスクからスピーカーでコーランが聞こえて来たり、アジア的な情緒に満ちた場所です。

そんなエキゾチックな空気に包まれて、歴史ある店でゆったりと味わうクラシックなビールもまた格別です。コーランの音色でビールを飲んだら怒られてしまいそうですが(笑)。

  • 価格:まあまあ
  • クオリティー:良い
  • 雰囲気:ずーっと変わらぬ古き良きパブ
  • トイレ:きれい
  • アクセス:MRTからは少し遠い
  • 一口ポイント:夕方に聞こえてくるコーランの音色が美しい

[SQUE Rotisserie & Alehouse]

6 Eu Tong Sen St, #01-70, Singapore 059817

クラークキーの川沿いにあり、MRTの駅からもすぐ近くのこの店は、あまりにも分かりやすい場所にありすぎて、ビールのサーバーが目に留まらない人が多いのではないでしょうか?

案外「灯台下暗し」なロケーションにある、グリルダイニングに併設されたビールカウンターです。

自分の知る限り、このようなアーチ型のビールサーバーに12ものタップを配した、いかにもクラフトビールパブ然としたカウンターを備えたのは、このお店が最初ではなかったかと思います。

最初はチェコビールが中心で、カウンターにもチェコ人のサーバーが立っていたのを覚えています。

今のラインナップは、タップが12あるとはいえ、ステラアルトワやビアチャン、サンミゲール、ペローになど、主にラガーや大手のウイートビールなどが中心で、クラフトビールという品ぞろえではありません。

しかしながら、川沿いの雰囲気で陽が出ているうちから飲むには、このような飲みやすい大衆的なビールの方が相応しいのではないでしょうか?

大手ビール中心とはいえ、12種類もドラフトビールが並ぶのはやはり壮観ですし、色々と楽しめて気分が上がります。

パイントの価格は17ドルから20ドルくらいまでの物がほとんどと、少々高く感じますが、この価格で11:30~21:30までワンフォーワン、つまり営業中のほとんどの時間帯が1杯飲むともう1杯ついてくる設定になっているので、かなりお得と言えるでしょう。

しかも21:30からは全品1パイント12ドル、というプロモ価格になるようなので、じゃあ定価は一体いつなんだよ!と嬉しい突っ込みを入れたくなります。

元々がレストラン母体のビールカウンターなため、フードのバラエティーとクオリティーは申し分ないです。

グリルの盛り合わせ、バーガー、ケサディーラ、サラダ、ピザ、ポークリブ、ローカルフードやバースナックまで、美味しいうえに結構なボリュームで出てきますので、土日などは欧米人の家族連れでにぎわっているのもうなずけます。

12種類ものドラフトビールを提供しつつも、意外なほどにビアパブとして認識されていない、「わかりやすすぎるが故に視界に入らない、知られざるビアカウンター」。

川沿いの雰囲気は最高です。ぜひ太陽の下で汗を流しながら楽しみましょう。

  • 格:ビールが安い
  • クオリティー:まあまあ
  • 雰囲気:川沿いのビールは最高
  • トイレ:モールの中なので少し遠い
  • アクセス:クラークキー駅すぐ上
  • 一口ポイント:気軽に1杯でも入れる雰囲気が良い

[Café Iguana]

30 Merchant Road #01-03 Riverside Point, 058282

こちらもクラークキーの川沿いにある20年選手です。

外装がどこからどう見てもラテン系で、事実この店はメキシカン・ダイニングなので、クラフトビールと関連付ける方はほとんどいないかも知れません。

しかしこのお店は、すぐ近くにあるシンガポール最古のクラフトビールブリュワリー「ブリュワークス」の姉妹店で、それ故、こちらのお店でもブリュワークスのビールが常時4種類楽しめます。

ブリュワークスのピルスナー、ゴールデンエール、IPA、スタウトを提供していて、パイント15ドルです。メキシコ料理との相性を考えてか、ブリュワークスの数あるビールの中でも苦みが効いているものを集めている印象があります。1990年代からクラフトビールを作っているブリュワークスのビールですので、さすがに安定感が違います。

もちろんメキシカンですので、本命はビールではなくやはりテキーラ。

何種類ものマルガリータを始めとした、テキーラのカクテルが売れ筋の様です。もちろん様々なテキーラをショットで飲むこともできます。「テキーラ・フライツ」という、テキーラの飲み比べセットもあり、全部試すと16種類もあるので、とんでもないことになってしまいそうです。

お食事はご期待通り、ナチョス、タコス、ケサディーラ、ファヒータ、エンチラーダ、ブリトーなど、徹頭徹尾揺るがぬメキシカン。肉・豆・スパイスの嵐で、ビールともテキーラとも組み合わせは抜群。ここの味付けはスパイスがビシッと効いて、いつも変わらず美味しいなーと思います。

自分はいつも一人で行くのですが、一皿の盛りが多いのであまり食べられず、やはり何人かで行って、シェアしながら思いっきり食べてみたいなと思います。

クラフトビール専門店でもないこのお店を載せたのは、個人的に大好きなお店だからで、その理由の一つが古びたメキシコのパブを思わせるような、さびれた感じの内装です。

バーカウンターの上に飾られたメキシコ製の人形や、壁に掛けられたソンブレロハットなど、メキシコで飲むのが夢の私にとって、シンガポールにいながらにしてまだ見ぬメキシコを思わせてくれる、そしてクラフトビールまでも飲めてしまうという、貴重なお店なのです。

何よりも好きなのは、壁の真ん中にデーンと飾られた、メキシコの画家「フリーダ・カーロ」の自画像の模造品で、勝手にイグアナを頭の上に乗せてあるというギリギリのものですが、しかしこの模造品、とても良く描けています。

私は、身体に大きなハンデを追いながら、短い人生を、芸術と革命と恋愛に余すところなく捧げたこの女性の大ファンなので、フリーダを眺めながらビールとテキーラとメキシコ料理、というだけでも通う理由は十分なのです。

  • 価格:普通
  • クオリティー:とてもよい
  • 雰囲気:そのままメキシコ
  • トイレ:古い
  • アクセス:クラークキー駅より5分
  • 一口ポイント:個人的に皆さんにフリーダ・カーロを知って欲しい

[The Jolly Roger]

15 Chu Lin Rd, Singapore 669907

その存在は知りつつも、ずーっと行く機会がなく、この記事のために初めて訪れましたが、行ってびっくり、平日でも6時には満席になってしまう、ご近所さんに愛されまくっている大人気パブでした。

住宅街の中にある「近隣パブ」は、先に上げた通りコロナ禍での在宅勤務へのシフトから、その人気が再燃していますが、「近隣パブ」は数あれど、こんなに住宅街のど真ん中にあるパブは唯一ではないか、という程に、住宅の中に忽然と現れます。

ドラフトビールは、ピルスナーウルケル、ギネス、イギリスのセント・オーステル・プロパージョブ、など。クラフトビールではなくやはりヨーロピアンクラシックな品ぞろえ。

ビールの管理はきちんとしており、どのビールも素晴らしいクオリティーで適度に冷えており、ゴクゴクいってしまいます。

パイントは15ドル。ヨーロッパ伝統のUKパイントグラスで提供されますので、量もたっぷり。価格は税金サービス込みのネットプライスという事ですので、これはかなりリーズナブル。さらに16時から20時まではハッピーアワーで12~13ドルネットと、さらにお得になります。早い時間から満席なのも納得できますね。

お料理は、バンガー&マッシュ(英国スタイルのソーセージ盛り)、オールデイ・イングリッシュ・ブレックファスト、フィッシュアンドチップスなど、イギリスのパブ料理が並びます。フィンガーフードやパスタなどもありますので、お食事から軽いおつまみまで、様々なシチュエーションに合わせられると思います。

私は、イングリッシュローストという、ローストビーフとステーキの中間のような料理を注文しましたが、肉厚のビーフの焼き加減がちょうどよく、うまみのあるソースと合わせてとても美味しく、付け合わせにも丁寧な仕込みを感じました。ここはおそらく他の料理もきちんと作り込まれて美味しいかと思われます。

これぞパブといった感じで、店内には真ん中にビリヤード台が鎮座しています。ビールを片手に皆さん酔っぱらいながら楽しくプレイしていたのでしょう(今はコロナ対策か使用不可の様でした)。床には所狭しとビールの空き樽が置かれ、壁はビールのポスターで埋め尽くされています。

このごちゃっとしたインテリアは、まさに古き良き庶民派ブリティッシュパブ、といった感じです。

しかし何と言っても気持ちいいのは、テラス席とも呼べないような、店の表の柵にちょこっと添えられた、小さなカウンター席です。目の前は住宅街。隣の家の麻雀の音さえ聞こえてくる超ローカルな立地で、住宅の奥には緑豊かなブキティマの丘が連なります。

実家のすぐ横にこんな居心地の良いバーがあったら最高だろうなー、などと考えながらこの小さなカウンターで飲んでいると、なぜだかとても幸せな気持ちに浸れます。このヨレヨレの木のカウンター席こそが特等席なのです。

この付近にお住まいの方でもない限り、なかなか行く機会のないお店だと思いますが、この雰囲気は遠くからでも行く価値があると思います。

前述のように平日早い時間でも満席ですので、金土はウオークインではまず入れないと思います。

開店間際を狙うか、予約してからのご来店をお勧めします。

  • 価格:安い
  • クオリティー:素晴らしい
  • 雰囲気:居心地の良いごちゃごちゃ感
  • トイレ:1つしかないので並ぶ
  • アクセス:ご近所さん以外は厳しい
  • 一口ポイント:シンガポールのベスト近隣パブ

今回は全てクラシックなタイプのお店になってしまいましたので、必然的にビールも流行のクラフトビールではなく、オールドスクールなヨーロピアンビールばかりになってしまいました。

しかし、このはやりすたりの激しいシンガポールで長く営業し続けているという事は、相応の理由とそれに見合うたゆまぬ努力があるはずで、古びた店内で飲む一杯が、とても貴重なものに思えて仕方がありません。

これまでにもお伝えしましたが、このような歴史のあるパブでも、オーナーの高齢化、ビルの老朽化、政府による土地再開発、様々な理由から、人気店であるにもかかわらず、いきなり移転または閉店を余儀なくされてしまうのがシンガポールです。

この1、2年でも多くの歴史あるパブが無くなっています。

もちろん今回紹介したお店がそうなるわけではないと信じておりますが、いつ何が起こるのかわからない世の中ですから、歴史の短いこのシンガポールで長い歴史を誇る貴重なお店を、時にはのぞいてみてはいかがでしょうか。


シンガポールのおすすめクラフトビール

過去のクラフトビールコラムはこちら⇩
https://byst.sg/category/blog/food-drink/craft-beer/

SG TAPS
島内唯一シンガポールのクラフトビールが10種類、生で飲めるシンガポールビール専門店。 ボトルビールでは更に、日本、香港、ベトナム、台湾、インドなどのクラフトビールを揃え、アジアのクラフトビール文化を底上げしていきたいと考えている。 ラクサピザ、奄美鶏飯風チキンライスなど、ローカル、和洋食を絶妙に組み合わせたユニークなフードも人気。
https://www.facebook.com/SGTAPS13/

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