【&Hによる暮らしのノート】ヘルパー/メイドのいるシンガポールライフ vol.12

■連載小説 -星と陽の間で- 第6話■

夫のシンガポール赴任に伴い来星することになった主人公・映子が、シンガポールと日本の価値観の間で揺れ動く。

そんな映子のこれから始まるシンガポール生活への不安や困惑、希望を描いたストーリー。

前回までのお話

実際にシンガポールに来てみて、気温やシングリッシュ、様々な人種など日本との違いに戸惑う映子

果たして自分はこの地で新しい生活を送ることができるのだろうか

【第6話】

翌朝、7時近くなってようやく明るくなってきたシンガポールの朝に驚きながらホテルで朝ごはん。

少し前から離乳食を始めた芽衣には、日本から持ってきたレトルトの離乳食を食べさせる。

ビュッフェにお粥があったけど、あのお粥は芽衣に食べさせても大丈夫だろうか…などと考えながら初めてドラゴンフルーツを食べる。

-このあまり味のしないフルーツは何を楽しめばいいんだろう。食感…かな?-

「今日は物件巡りか」

とりあえずエージェントにはオフィスのあるタンジョンパガーに通いやすいチョンバルと、日本人が多いサマセットを中心に、と頼んでいる。

あとはセントーサ島とイーストコーストの方も日本とは違った雰囲気で良さそうだから見に行ってみようかな。

とは言えシンガポールは狭い上にバスとMRT(電車)が島内を網羅しているのでどこに住んでもそこまでの不便はないらしい。

予想はしていたけれど、やはりここは外国、南国だということをいろんなところで気づかされる。

「日本のマンションとはやっぱり色々と違うねー」

いろんな場所の物件を見てきたが、
大抵の家は床が大理石で天井にファンがついている。

バスタブのない物件もあり、基本的にどこも窓に網戸はついていない。

家の中にエレベーターが止まる物件もあれば、ルーフバルコニーにジャグジーのある物件もある。

マンション(こちらではコンドミニアム、略して〝コンド”と言うらしい)には共用施設としてプールやジムがついている。

コンドによってはバスケットコートがあったり、テニスコートがあったりもする。

少し日本っぽい物件もない事はないのだが、窓からは緑が見えたりタンカー船が見えたりと、どこかしらでやっぱりここはシンガポールなんだな、と思い出させる何かがある。

そして…

どの物件にもメイド用の部屋がある。

物件によってはシェルターとも呼ばれる部屋がメイド用の部屋として使われるらしい。

そこは大抵ダストシュート近くの3畳ほどの小さな部屋で、窓もなく、無機質で暗い、とても同じ物件内とは思えない部屋だった。

そして隣接するトイレ兼シャワーはお湯が出ない仕様になっていた。

昨日見かけたベビーカーを押していた女性たちはこういった所に住んでいるのだろうか。

何とも言えないザラザラした気持ちと埃っぽい空気が映子を包んだ。

窓もない、エアコンもない。

きっとテレビなどの娯楽もないのだろう。

メイドさんたちはここでどうやって暮らすんだろう?

水しか出ないシャワーで一日の疲れをどうやって癒すのだろう。

私には無理だ。

同じ人間が一つ屋根の下こんなに違う環境で一緒に住むなんてできない。

朝あの部屋から出てきた人に、笑顔でおはようなんて言える自信がない。

ヘルパーなんだからそれで当たり前だ、と言える人間になりたくない。

「ここはー、物置かな?俺のゴルフバッグここに置くわ。な?
あれ?どうした映子、コワイ顔して。
ここは気に入らない?」

「ううん。そうじゃなくて。
お手伝いさんはこういうところで生活するのかなー、って思ったらちょっと、ね」

「え?ここ誰かの部屋なの?
これはー…無理っしょ。

普通の人間はここには住めないし住ませちゃダメじゃね?」

「だよね。なんか私ちょっと悲しくなってきちゃった…」

「なんで?映子お手伝いさんに知り合いなんていた?」

「いないけど…なんか想像したらどんどん悲しくなってくる」

「え?なんで?そう思うなら雇わなきゃいいだけじゃね?」

「なんか、そういう問題じゃないと思うんだ…」

「でもさ、お手伝いさんとして働きたい、って人はこういう労働環境だって
わかって来てるんだろ?本人がそれでいいって言うんならいいんじゃね?」

「そうなのかな。本人の問題なのかな…
でもパパさっき住ませちゃダメじゃね?って言ってなかった?」

「ん?んー、なんかさ、俺たちの常識ではアリエナイって思うことでも外国人にとってはいやいやフツーにアリでしょ、ってことも実は多いのかもな、とも思うわけよ。
ここに住むなら自分の固定観念は捨てないとダメな時もあるのかもな、って。
だから第一印象は〝アリエナイ”だけどシンガポールに住むなら〝アリ”じゃね?と」

「…と、パパはこの短時間に固定観念を捨てたのね」

「ま、そういうことかな」

固定観念か…

夫の言っていることはなんとなくわかる気がする。

日本での常識がここシンガポールで同じように通用するとは私も思ってはいない。

お手伝いさんの部屋に限らずいろんな事に対してそうなのだろう。

郷に入っては郷に従え、ってことなのかな。

外国に住むということが急に現実味を帯びて私の目の前に立ちはだかった。

<第7話に続く・・・>

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