【クラフトビール解体新書 vol.9】ロケーションに癒されるビールバー

【2021年5月アップデート版】

皆様、こんにちは。

今月も楽しくビールライフをエンジョイしていますか?

私自身が選ぶお店は意外にもロケーション重視で、海沿いのお店や木々の中にあるようなお店は、何度もリピートしてしまいます。

休みの日にどこか新しいお店を発掘しようか、と考えると、まずは海沿いに何かできていないか地図で物色し始めるほどのビーチバー好きです。

今回はそんな私の趣味を全開にしたお店を紹介していきたいと思います。

趣味が出すぎていて、今回は正直クラフトビール色は薄いのですが、そこはお許しください。

では、今回も紹介していきます!

<広瀬礼仁>
シンガポールのクラフトビール専門店「SG TAPS」店長兼ウエイター。
当地シンガポールにて、クラフトビール業界に5年程関わったのち、2018年4月に独立。ビールを始め、日本酒、ワイン、ウイスキーなど、アルコール文化に対する愛は誰よりも広く深いと自負している。

[Level 33] 

8, #33-01 Marina Blvd, Tower 1 Marina Bay Financial Centre S018981

こちらに関してはあまり説明の必要はないでしょう。あまりにも有名なお店ですので行ったことがある方も多いのではないでしょうか?

しかしながら、ロケーション重視というタイトルでこちらを紹介しないわけにはいかないですので、まだ行ったことがない方々や、日本に住んでいてこのコラムを読んでくださっている方のために(なんと最近何度か日本から読んで下さっているという声をいただきました。ありがたいことです)、紹介させていただきたいと思います。

オープンが2010年ですので、シンガポールのブリュワリーの中では歴史は長く、10年選手に入ります。ドイツスタイルのバランスの取れた堅実な作りのビールを得意としていて、5種類の定番ビールはオープン当初から変わっていません。それだけ自信があるラインナップなのだと思います。

ビールの味もさることながら、ビールを飲んでいる高揚感を更に押し上げる演出に隙がありません。

1階から33階までの直通エレベーターを降りると、美しい真鍮製のモルト発酵タンクがずらっと並び、タンク内蔵のカメラによってモルトが発酵している様子がモニターに映し出されています。その奥にレセプションカウンターがあり、きちんと案内係の女性が立っています。

本当にここにブリュワリーがあるの?という気持ちで金融ビルの自動ドアをくぐり、特設エレベーターで一気に高層階に、扉が開くと1秒でブリュワリーと高級バーの雰囲気を同時に体験でき、更に数歩進めばマリーナベイサンズをベストなアングルから眺められます。ビールを注文する前に心は既に非日常。訪れる全ての人のテンションをいきなりマックスに持っていく、素晴らしい演出です。

そしてなんと、ブリュワリーとしては世界最高層という、このフロアで作られたビールを、世界を魅了するベイサンズの美しい夜景と共に味わえるのです。ありったけの贅沢が揃って、ビールの価格はパイント$17程と、シンガポールとしては極めて平均的。これだけの理由があって、このLevel 33をシンガポールのベストクラフトビールバーから外すことはできません。

超有名店で常に混みあっていますが、いきなり訪ねたとしても、ベランダ席のスタンディングなら大概入れます。ハイエンドな雰囲気ながら、そういった気軽さ、フレキシブルさも人気の秘訣だと思います。

バーサイドとレストランサイドに分かれており、レストランサイドはゆったり落ち着けますが、食事が高級店並みになる上、夜景は見づらくなりますので、むしろLevel 33を堪能するにはカウンター席やスタンディングの方が良い気がします。

カクテルも相当なクオリティーで作られていて、ビールが苦手な方をお連れしても失望させることはないでしょう。

しかしここで一番頼むべきものは何と言っても5種類のテイスティングセットです。メニューには100mlx5種類と書かれていますが、そのグラスはどう見ても200ml以上はあり、飲みごたえ十分。格安と言っていいでしょう。

シンガポールという都市ならではの魅力を体現した、アーバンという言葉がぴったりのクラフトビールバーです。未体験の方はぜひ一度行かれてみて下さい。

  • 価格:総合的に判断して格安
  • クオリティー:良い
  • 雰囲気:ハイエンド
  • トイレ:きれい
  • アクセス:入り口のエレベーターがわかりづらい
  • 一口ポイント:クラフトビールを超えたエンターテインメント

[Little Island Brewing Co]

6 Changi Village Rd, #01-01/02, S509907

ユニークなシステムを持つこのお店は、都心から離れたロケーションにあるにもかかわらず。多くのお客さんに愛されています。

そのユニークなシステムとは「自分でビールを注ぐ」というものです。

この店でビールを飲むためにはまずミニマム$30を払って、SUICAのようなカードを購入しなければなりません。そしてそのカードをカウンターにずらっと並ぶビールサーバーにタップして、グラスに注いだ分量だけカードから引かれていきます。ビアサーバーには何ミリリットル注いだかが表示され、1パイントでもハーフでも100mlでも、自分の好きな量を注ぐことができます。まるでガソリンスタンドの機械を見ているようです。

カードの残金がなくなった場合には再びキャッシャーでチャージして使用します。

つまりこのお店を初めて訪ねた時には、「1杯だけ」は注文できません。必ず$30を払わないといけないのです。

しかし、このカードのシステムはなかなか優れもので、5ドル分だけ飲みたい、などのわがままに応えてくれます。また「自分で注ぐ」というDIY感覚も楽しく、思わずビールが進んでしまいます。

ドラフトビールは8種類ほどあり、全て店内で醸造されているシンガポール産のビールです。こちらは他店には売らないポリシーを貫いているため、私の店「SG TAPS」でも仕入れることは出来ません。完全にここでしか飲めないビールとなっています。

お料理も他にない個性を持っていまして、奥に据え付けられた重厚なグリルオーブンでは、薪の火力でお肉やソーセージなどが美味しそうに焼き上げられており、海沿いのワイルドな雰囲気を更に引き立たせてくれます。ただ焼くだけでなく下味もしっかりと付けてあり、この料理のクオリティーもリピーターを惹きつける一つの要因です。

敷地内は広々としており、お子様の遊具も設置してあるなど、ファミリー・ウエルカムな雰囲気をかもしだしていますので、土日などはお子様連れでにぎわいます。

休日に家族で出かけたい。でも美味しいビールは外せない。という方にうってつけのお店だと思います。

  • 価格:フレキシブル
  • クオリティー:良い
  • 雰囲気:海沿いの開放感
  • トイレ:きれい
  • アクセス:チャンギの果て
  • 一口ポイント:自分でビールを注ぐ唯一無二のスタイル

[La Pizzeria at Bridge and Beacon Bar]

52 W Coast Ferry Rd, Singapore 126887

ウエストコーストパークのすぐ横にあるヨットクラブの敷地内にある、ヨットハーバーを眺めながらビールが飲める、とてもハイソな雰囲気のレストランバーです。

ここはクラフトビール専門店ではありませんが、タイガー、ハイネケン、ペローニなど複数のドラフトを揃えており、とてもリーズナブル。何よりヨットハーバーというバブリーなシチュエーションでビールが飲める喜びを味わえる、シンガポールで数少ないお店です。

ヨットクラブの2階のベランダ席という落ち着いた雰囲気、目の前にはヨットハーバーと水平線が広がっています。静かな店内で冷えたビールを飲みながら遠くの貨物船を眺めていると、まるでデビュー当時のユーミンのヒットソングの中にいるような感覚です。彼女の場合はソーダ水でしたが(笑)。

見るからに高級感あふれる建物とは裏腹に、タイガーがハッピーアワーパイント$6.5など、ビールはとてもリーズナブル。お食事も本格的なピッツェリアとしては良心的な価格です。

ヘッドフォンをセットしてYouTubeでユーミンのヒットパレードを聴きながらアジアの片隅の海沿いのバーでキリッと冷えたイタリアンビール。80年代、海外への憧ればかりをつのらせた田舎の高校生だった私には、この1杯は「幸せ」の言葉そのもの。数週間の疲れを癒すのに十分足ります。

はばかりながら、同じ想いを共有して下さる同世代の方も多いかと存じます。

クラフトビールの店ではありませんが、ユーミン、山下達郎、サザン、チューブなどのキーワードにピンとくる方は、一度こちらを訪ねることをお勧めします。最高のビールが味わえることを保証します!

*会員制ヨットクラブの敷地内ですので、入り口でセキュリテイーに止められることがありますが、ブリッジ&ビーコンに行きたいと言えば問題なく通してもらえます。

  • 価格:ハッピーアワーは安い
  • クオリティー:良い
  • 雰囲気:ユーミン、の一言に尽きる
  • トイレ:きれい
  • アクセス:入り口で止められる
  • 一口ポイント:ホッと一息つきたい時には最適

[Archipelago Brewery]【閉店】

50 Punggol E, S828824

MRTプンゴル駅からさらにLRTに乗り換えてたどり着く、知る人ぞ知る隠れ家自然派飲みエリアにある、アーキペラーゴビールの直営店です。

昔からある海老釣り池の横に数年前からパブやレストランが立ち始め、さらに3年ほど前、その横にコンテナを利用した若者向けの飲食店街ができました。

フィッシュアンドチップスの有名店があり、ほとんどのお客さんはそこを目当てに来ているようですが、他にもバーや韓国料理などがあり、開放的な雰囲気がウケているのか、土日などは若い人たちでなかなかの賑わいを見せています。

海沿いの河口域のようなエリアにあり、川を挟んだ対岸には森林がひろがっていて、のどかな自然を感じながらゆったりとビールを味わえます。特に日が暮れていくときの雰囲気は何とも言えない郷愁を感じさせます。

アーキペラーゴの直営店なのか、店名も「アーキペラーゴ」。それだけにきちんと管理され、冷えたアーキペラーゴを4種類ほど揃えています。

日本人はほとんどいないエリアですし、この辺に住んでいる方以外は足を運ぶことのない場所だと思います。LRT(MRTに接続している公団住宅集中型の無人環状電車)に乗る機会もめったにないと思いますので、興味深い体験になるかも知れません。

プンゴルは都市部からは離れますが、その地域で独自の完結した生活圏を持つ、楽しいエリアです。

こちらのブリュワリーを訪ねるついでに、自然に囲まれたこの高層住宅エリアをめぐってみるのも悪くないでしょう。

  • 価格:まあまあ
  • クオリティー:良い
  • 雰囲気:川と森に囲まれた雰囲気
  • トイレ:あまりきれいではない
  • アクセス:LRTからは近い
  • 一口ポイント:LRT沿い唯一のクラフトビール(?)

[The Queen & Mangosteen]

1 Harbourfront Walk #01-106/107 Vivocity, S098585

こちらもまたアーキペラーゴなのですが。

ビボシティーの中のセントーサ島に面した位置にあり、セントーサ島や隣のふ頭の風景を眺めながらビールを味わえます。

海沿いの雰囲気を味わいながら飲みたい時には一番手っ取り早い場所にあり、アクセスも容易なため、場所に悩んだ時には私はとりあえずここに行ってしまいます。

アーキペラーゴが4種類の他にタイガーやギネスなどもあり、ドラフトの種類はそこそこ充実しています。フードもバーフードだけでなく、きちんとしたお食事も提供していますので、ビボシティーでのお買い物の休憩にでもよいかと思われます。

  • 価格:まあまあ
  • クオリティー:良い
  • 雰囲気:セントーサ島のきれいな夜景を眺められる
  • トイレ:きれいだが少し遠い
  • アクセス:とても良い
  • 一口ポイント:とりあえず行きやすい海沿いバー

[RedDot Brewhouse]

25A Dempsey Rd #01-01, S247691

デンプシーエリアに長く店を構える、ブリュワリー兼バーレストランです。

レッド・ドットは15年近くの歴史を持つクラフトビールブリュワリーで、スピルリナを加えた緑色のラガーで一気に名を馳せました。

日本人も行く機会が多いボートキーにもお店を構えていますので、知っている方も多いかと思います。

こちらのデンプシー店は1860年に建てられたコロニアル様式の建物を改装しているそうで、まずそのエキゾチックで堂々とした容姿に目を奪われます。

少し高台に建つこのお店は、全席屋外でエアコンはありませんが、心地よく風が吹き抜け、陽が出ている時間帯でも快適に過ごすことができます。

緑に囲まれた空間はとてものどかで、ビール1杯の幸せが倍にも3倍にも感じます。

ブリュワリーからそのまま蔵出しの樽ですので、当然ビールはとてもフレッシュです。

レギュラービールが8種類と、季節限定ビールが2種類ほど。ビールのクオリティーと安定性は年々上がってきていて、レギュラービールは万人に好まれるような飲みやすさで作られている反面、季節限定ビールは少し個性的な作りをするなど、バラエティーも広がりつつあります。

料理にも並々ならぬこだわりがあり、バーフード、メインの肉料理、バーガー、パスタ、お好み焼きピザなんてものまで、どれも一工夫された美味しいメニューで、ランチもディナーも家族でのお食事でも、あらゆるシチュエーションに対応できます。

キッズウエルカムなところも要チェック。

芝生で敷き詰められたガーデンには子供用の遊具も用意され、お子様と一緒でも安心して楽しむことができます。土・日はお子様向けの企画も積極的に催されており、ファミリー層でいつも満席です。

座って1杯飲むだけでも赤道直下のこの国の歴史と風土を感じることができ、家族や友達と料理を囲めばなお楽しい。どんなシチュエーションでもお勧めできるお店です。

  • 価格:雰囲気の割にリーズナブル
  • クオリティー:ビールも料理も美味しい
  • 雰囲気:コロニアルな建物で南国を感じる
  • トイレ:きれい
  • アクセス:有名エリアだが最寄り駅はない
  • 一口ポイント:飲んでいるだけで特別な気持ちになれる

[Arbora]

109 Mount Faber Rd, Faber Peak S099203

マウントフェーバーの天辺。セントーサ島に渡るケーブルカーの乗り口の横にあるビストロです。

最近、自社ブランドのクラフトビールのボトルを売り始めました。

セントーサ島を見下ろしそのはるか遠くの水平線までがフレームに収まる眺望は、ビールを楽しむロケーションとしては島内屈指。昼でも夕方でも夜景でも、全時間帯が絵になります。

気持ち良い風を感じながら、この眺めのテーブルで味わうクラフトビールは格別。下界を忘れる時間の流れでビールを楽しむことができます。

クラフトビールはサマーエールとペールエールの2種類のようですが、他にもタイガーなどのドラフトもあり、ビール好きの喉をうならせてくれるのは間違いありません。

まさかこんなところに自家醸造ビール(ここで作られているわけではありませんが)があるなんて、知らない方がほとんどだと思いますし、瓶のデザインも可愛らしいですので、写真映えしそうなレアなネタを探している方にはピッタリです。

ちなみに、ビストロというだけあって、お食事もクオリティーの高い洋食系の料理が並んでいます。

この周辺は散歩道にもなっており、歩くとなかなか気持ちよく、下から登ってまた下ればかなりの運動になります。

時間をゆっくり使えるお休みの日などは、登山気分で山頂でビールを飲み、ほろ酔いでゆっくり歩いて下まで降りるのも楽しいですね。私は体力がないのでタクシーですが(笑)。

  • 価格:山頂だけあって少し割高
  • クオリティー:良い
  • 雰囲気:景色は最高
  • トイレ:きれい
  • アクセス:タクシーがベスト
  • 一口ポイント:誰もこんなところにクラフトビールがあると知らない

読み返してみると、今回は本当に趣味が丸出しになってしまいました。

ロケーションを重視するがゆえに、アクセスの良くないお店ばかりになってしまいましたが、その分普段とはまた違ったビール体験ができるのではと思います。

実はもっと色々なお店もネタとして準備していたのですが、改めて訪ねてみると閉店してしまっている所が数軒あり、シンガポールの飲食店の移り変わりの速さを感じました。お店の売り上げ不振というより、再開発や契約終了などで立ち退かなくてはいけなくなるケースが多いようです。

これまでに紹介させていただいたお店の中にも、すでにクローズしている所もあります。

これはもう、変化の速いシンガポールの宿命としか言いようがありませんので、このコラムを読んでいただいて気になるお店があったら、なるべく早く訪ねられることをお勧めします。

もちろんその反面、新しいお店が続々オーブンするのもシンガポール。

これからも素早く情報をキャッチして、お送りできればと思います。

シンガポールのおすすめクラフトビール

過去のクラフトビールコラムはこちら⇩
https://byst.sg/category/blog/food-drink/craft-beer/

SG TAPS
島内唯一シンガポールのクラフトビールが10種類、生で飲めるシンガポールビール専門店。 ボトルビールでは更に、日本、香港、ベトナム、台湾、インドなどのクラフトビールを揃え、アジアのクラフトビール文化を底上げしていきたいと考えている。 ラクサピザ、奄美鶏飯風チキンライスなど、ローカル、和洋食を絶妙に組み合わせたユニークなフードも人気。
https://www.facebook.com/SGTAPS13/

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