ビール好きの皆様こんにちは! クラフトビールをテーマにコラムを書かせていただいております、SG TAPSマネージャーの広瀬です。
前回はホーカーセンターでクラフトビールが飲めるお店を、ずらっとまとめて紹介させていただきました。 今回は1軒で30種類のクラフトビールが飲めるお店を紹介しながら、色々なタイプのビールを細かく解説していきたいと思います。
<広瀬礼仁> シンガポールのクラフトビール専門店「SG TAPS」店長兼ウエイター。 当地シンガポールにて、クラフトビール業界に5年程関わったのち、2018年4月に独立。ビールを始め、日本酒、ワイン、ウイスキーなど、アルコール文化に対する愛は誰よりも広く深いと自負している。
今回のお店はドビーゴートとブギスの間、ウオータールーストリートにあります「American Taproom」です。 このお店の売りは何と言ってもカウンターにずらっと並んだビールのタップ。 アメリカを中心に30種類ものクラフトビールが楽しめます
「American Taproom」
261 Waterloo St, #01-23, Singapore 180261https://www.americantaproom.com.sg/
①. Heart of Darkness (Vietnam) Physical Danger / Pilsner
最初はいきなりベトナム、ホーチミンのクラフトビールです。ピルスナーというタイプのビールで、現在世界で飲まれているビールの9割以上がこのタイプになります。
日本の大手ビールや、タイガー、ハイネケン、バドワイザー、カールスバーグ…有名大手ビールはほぼピルスナーといって差し支えないでしょう。 ですので、大手ビールの味がお好みの方は、このピルスナータイプを選べば、おおよそ間違いないと思います。 ベトナムのクラフトビールとは意外に思われる方もいるかもしれませんが、ホーチミンはアジアでも有数のクラフトビールエリアになっており、主に移住した欧米人により、ハイクオリティーなクラフトビールが数多く作られ、特にこのHeart of Darknessはシンガポールや日本にも輸出されています。
②. Rogue (US) Hot Tub Lager / Helles Lager
ピルスナーを含む、更に大きなカテゴリーがラガーです。ビールを飲む方なら、どこかで必ず耳にしたことがあるのではないでしょうか?やはりほとんどのものは、ピルスナーと同じく大手ビールに象徴される、透明な黄金色のビールです。ピルスナーはチェコで偶然生まれた透明なビールですが、それ以前はビールは多少なれども濁っていました。このピルスナーの登場以降、世界中がこのスタイルに夢中になり、ビールと言えばピルスナーと言われるまでになりました。それが面白くないのは、チェコよりもビール造りの長い歴史を持つドイツです。そこで、ビール王国の威信をかけて、ピルスナーに打ち勝つビールを作ろうとしました。それがこのヘレスラガーです。美しい淡色の、モルトの味わいが優しい、飲み口の良いラガーです。
ちなみにRogueは、アメリカ近代クラフトビール御三家と私が勝手に呼んでいるものの一つです。
③. Pirate Life (Australia) / Dark Lager
割合はあまり多くはないですが、黄金色だけではなく、褐色や黒色のラガーも存在します。色だけ見れば、後程紹介する「スタウト」のように見えますが製法が大きく違い、一般的にダークラガーはスタウトに比べてキレがよく、ややさっぱり目です。
Pirate Lifeは、近頃頭角を現している、南オーストラリア、アデレードの海沿いの町のブリュワリーです。
④. Deschutes (US) American Wheat / Pale Wheat Ale
アメリカ近代クラフトビール御三家のうちのもう一つ、読めない書けないブリュワリーとして名をはせる、デシューツです。今回の30種類の中では唯一のウィートビールです。ウィートとは小麦のことで、一般的に使用される大麦に一定以上の小麦を配合して作られるビールです。ドイツやベルギーでは伝統的にウィートビールが作られますが、バナナのようなフルーティーな香りを持ち、甘みや酸味も感じられるため、女性に人気のビールです。
その飲みやすさから、ビールは苦手だけどこれだけは飲めるという方も多く、このウィートビールをクラフトビールの入門編として紹介する記事も多いです。
⑤. Rocky Ridge (Australia) Citrus Saison
オーストラリアの新進ブリュワリー、ロッキーリッジのセゾンビールです。
セゾンビールとは、ベルギー発祥の農家ビールで、夏の農作業中に飲むために、農閑期の冬に仕込まれるビールで、近年はファームハウススタイルとも呼ばれます。農作業中にビールを飲むとはなんともベルギーらしい話ですが、実際はいたって大真面目で、衛生面の保証のない生水の代わりとされ、このビールを月に何リットル与えるかが、農場の給料に明記されていたほどだと言います。セゾンの味は各農家ごとに幅広く、現在でも様々な味がありますが、セゾン用の酵母には独特な香気があり、一般的には、夏に飲むのにふさわしい爽やかで薫り高いビールです。
⑥. Anderson Valley (US) Cherry Gose
Goseはドイツ語でゴーゼと発音します。こちらのAnderson Valleyはゴーゼスタイルを得意とするアメリカのブリュワリーです。ゴーゼは千年近くの歴史を持つといわれる、東ドイツ発祥のビールで、諸般の事情によりドイツの東西統合以降身をひそめてしまっていたのですが、近年再び注目を浴び始めました。
その味はとてもユニークで、コリアンダーなどのハーブ類と、何と塩を大量に加えます。
元々は鉱山労働者の水分・塩分・ミネラルの補給の効率化のために飲まれていたと言いますが、大量の塩と乳酸発酵のため漬物のような何とも言えない酸味があり、多くの人はこれをビールとは思えないでしょう。
しかし、その独特な酸味に魅了されるビール好きも多く、フルーツを加え飲みやすくした現代風ゴーゼは、コアなビールファンにとって、今や重要なジャンルのひとつとなっています。
⑦. Fourpure (UK) Beach Life IPA / Passionfruit Sour IPA
IPAという一大カテゴリーは後程説明いたしますが、こちらはサワーエールと呼ばれるタイプのもので、前出のゴーゼやベルギーの野生酵母ビール(ランビック)からインスパイアされたものです。まさに前述したとおり、酸味こそ強烈ですが、フルーツを加え飲みやすくアレンジしてあります。Fourpureはこの数年大きく勢力を伸ばしている、イギリスのブリュワリーです。
⑧. Deschutes (US) Mirror Pond / American Pale Ale
ビールを語るときにラガーと並んで外せないのが「エール」。そのエールの一番代表的なものと言えるのが、このペールエールです。モルトの旨味や甘みやロースト感、ドライさとアロマを感じるホップの香り。やや褐色のこのビールを見れば、「イギリスのパブとかでなんか飲まれていそうなビール」として多くの人が思い浮かべるでしょうし、実際にそうだと思います。ペールとは「青白い」「色の薄い」ことを意味する英語ですが、今のビールと比べると茶褐色に見えるこのビールも、ほとんどのビールが濃褐色で濁っていた時代には薄い色に見えたので、この名を付けられたそうです。
⑨. Stone (US) Go To IPA / Session IPA
すでにそれだけでクラフトビールの世界が完結できてしまうほどの一大カテゴリーであるIPA。その詳細は次のビールで説明しますが、IPAの細分化によって現れたスタイルです。セッションとはこの場合「セッショナブル」つまり、最初に飲むのにふさわしい、という意味合いを持っています。つまりライトなIPAということですね。アルコールは低めに抑えられていますが、ホップの香りはむしろ強いものが多く、単に軽いビールではなく、しっかりとIPAの特徴を捉えています。
⑩. Post Mark (Canada) IPA
バンクーバーのブリュワリーです。 IPAはクラフトビールの中でも、近年最も重要な位置にあるカテゴリーで、これしか飲 まない人もいるほどです。カテゴリーがあまりにも大きくなりすぎたので、○○IPAというように、その中で更に細分化が進み、現状は複雑な様相を呈しています。ですので、このビールのようにシンプルにIPAとだけ書いてあるのは、最近ではむしろ珍しいです。IPAはインディア・ペールエールの略で、まだ冷蔵庫がなかった時代に、イギリスからインドにビールを船で輸送する際、保存性をよくするためにホップを通常のビールよりも大量にビールに加えたのが、その由来となっているとされています。ホップを増量することにより、苦みや香りが強くなったインディア・ペールエールは、輸入だけではなく、国内でも人気を博していきます。そしてこの故事が現代にまで残り、ホップの香りや苦みがひときわ強いペールエールを、インディア・ペールエール、略してIPAと呼ばれることになります。
さて、だいぶ色々なビールの種類が出てきましたが、今回のシリーズは残り20種もあるので、3回に分けてご紹介したいと思います。
ビールはブリュワリーごとに誕生のストーリーや歴史があり、それを知るのもビールを楽しむ方法の一つです。
まずは今回ご紹介した10種を試してみてはいかがでしょうか。
SG TAPS 島内唯一シンガポールのクラフトビールが10種類、生で飲めるシンガポールビール専門店。 ボトルビールでは更に、日本、香港、ベトナム、台湾、インドなどのクラフトビールを揃え、アジアのクラフトビール文化を底上げしていきたいと考えている。 ラクサピザ、奄美鶏飯風チキンライスなど、ローカル、和洋食を絶妙に組み合わせたユニークなフードも人気。 https://www.facebook.com/SGTAPS13/